春爛漫の富士山である。青青と水を湛えた湖の向こうにそびえ立つ整然として真っ赤な梯形の高山。山頂に金雲が立ち上がり、山腹から陽光が降り注ぎ、折から、眼前の桜はまさに満開である。
歴史的には、北斎、大観、横山操、片岡球子などと、いろいろに描かれて来はしたが、これほどの喜色に溢れている富士山はない、と言っていい。これまで、どの画家によっても、多かれ少なかれ、理想的に描かれたとはいえ、これはその極致であり、紋切り型をためらわず、通俗に堕するのを恐れず、よくぞ、ここまで描ききったものだと、驚嘆する。
作者は、富士五湖に囲まれた富士吉田に住み、毎日、この不変の定型と顔を合わせている気鋭の画家。
瀬木慎一(美術評論家)